【AJOGに掲載・症例報告】羊水検査は陰性、それでも原因は「体細胞モザイク」。右半球の過誤腫に限局したOFD1変異

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このたび、当院(クリフム出生前診断クリニック、夫律子)を中心とするチームの症例報告が、産婦人科領域トップジャーナル「American Journal of Obstetrics & Gynecology(AJOG)」に掲載されました。テーマは「羊水の遺伝学的検査が陰性でも、脳の病変部だけにおこった遺伝子変異が原因となり得る」ことを裏づけた症例報告です。

結論

受精後に一部の組織だけに生じた遺伝子変化

羊水の遺伝学的検査が陰性でも、胎児の脳に局在性の異常(一部だけの異常)が生じることがあります。本症例は、その原因が体細胞モザイク(受精後に一部の組織だけに生じた遺伝子変化、上図)であることを病変組織の遺伝子解析で証明しました。

体細胞モザイクが原因で脳に異常があるケースだと、

  1. 病変が“局所だけ”であるため、羊水検査では異常が検出されない
  2. 脳の片側や一部にだけ形の異常が起こる(本症例では右半球に過誤腫・皮質形成異常・左右差)
  3. 次の妊娠での再発リスクはほぼ0である

という結論に至ったのです。

脳異常がある胎児を分娩したご両親は次の妊娠で同じことが起こるのではないか、どうすればよいかと不安いっぱいです。この論文の例のように、脳にのみ遺伝子変異を証明できると、次の妊娠で同じことが起こることはまずないとはっきりと申し上げることができ、ご両親は安心して次の妊娠に臨むことができるのです。

研究概要

論文タイトル

Prenatal diagnosis of fetal brain asymmetry with normal amniotic fluid genetic testing: a somatic variant in the brain(AJOG, 2025, DOI: 10.1016/j.ajog.2025.07.037)

研究の背景と目的

近年、出生前の神経超音波検査と分子遺伝学の進歩により、妊娠中の胎児脳異常の詳細な可視化と遺伝子特定が可能になってきました。しかし、一部の症例では羊水を用いた遺伝子検査が陰性となり、その結果、両親への遺伝カウンセリングが複雑化し、将来の妊娠に対する不安を引き起こすことがあります。

ほとんどの遺伝的要因は生殖細胞系列を通じて遺伝し、全身の細胞に存在しますが、体細胞変異は受精後に発生し、特定の組織のみに影響を与える可能性があります。このメカニズムは癌の発生でよく知られていますが、脳の体細胞モザイク現象に関する研究は主にてんかん外科組織で行われており、胎児の症例に関する報告は非常に限られているのです。

欧州の多施設研究では病変した脳の組織そのものを採取できた症例では約95%で原因遺伝子を特定できたという報告があります。一方、妊娠中に羊水だけで調べる方法では、原因の特定に成功した例はありません。体細胞モザイクは病変部に限局するため、羊水には出ないのです。

研究デザイン

受精後に一部の組織だけに生じた遺伝子変化

28歳・初産婦、妊娠19週6日。 正中線のズレ(Aの図)が見つかり、経腟超音波で脳梁のあるはずの場所に腫瘍様の塊(病理で過誤腫と判明)、右半球の回転の乱れ(Bの図)、左は週数相当の平滑表面(Cの図)を確認。胎児の羊水+ご両親の血液で解析するトリオエクソームは病的変異が見つかりませんでした。

ご両親は21週4日に中期中絶を選択し、男児462gで娩出。すぐに脳を詳細に検査しました。

結果

剖検では、男児の右の脳が左より小さく、右帯状回に過誤腫を認め、右半球内側で脳の溝が深くなる異常(皮質形成異常)が見られました。さらに、病変の細胞だけを詳しく調べると、特定の遺伝子(OFD1)に起きた変化がその場所にだけ存在しており(=体細胞モザイク、割合は約22%)、他の脳の部分や羊水、両親の検体には認められませんでした。このことは、受精後に脳の一部だけで起きた局所的な変化が原因であり、全身に共通して起きるタイプの変化(生殖細胞系列)ではないことを示します。このOFD1遺伝子はX染色体上に位置しており、全身に同じ変化がある場合は男児では致死的で初期流産が必発となりますが、今回は局所の変異だったため妊娠中期まで順調に発育し得たと考えられ、次の妊娠で同じことが起こる可能性はほぼないと説明できます。

なお本症例は、クリフム出生前診断クリニックで行っているような詳細な胎児脳神経超音波でしか分からないレベルの微細所見が、診断とカウンセリングを左右することを示しました。

全文をご覧になりたい方

下記のリンクより、論文の全容をPDFにてご覧いただけます。

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