【世界初・ AJOGに掲載】ダウン症候群の胎児脳マーカー「カモメサイン」と「菲薄化サブプレート」を発見

Medical Workers

このたび、クリフム出生前診断クリニック院長である夫律子を中心とした国際研究チームの新たな発見が、産婦人科学分野の最高峰ジャーナル「American Journal of Obstetrics & Gynecology(AJOG)」に掲載されました。

AJOG2025論文テーマ

掲載された論文のテーマは、ダウン症候群の胎児脳に特徴的な2つの形態学的マーカー「カモメサイン」と「菲薄化サブプレート」があることを発見したことです。

これは世界初の科学的発見であり、AJOG発表後わずか数週間で同誌の「Most Read Articles Top 10」に選ばれるほどの反響がありました。

夫律子が研究を始めたきっかけ

国際研究チームの代表を努めた当院の院長・夫律子には、20年以上にわたる経腟3D胎児脳超音波検査の経験があります。

これまで何万人もの胎児を診る中で、ダウン症候群の胎児脳に共通して見られる特徴的な形に気づくようになりました。

今回、76例のダウン症候群のある胎児と772例のコントロール群の詳細な比較分析をしたことで、臨床的な直感に過ぎなかった「気づき」を科学的に実証することに成功したのです。

経腟3D胎児脳超音波検査の様子

研究概要

論文タイトル

The fetal brain neurosonography in trisomy 21: the seagull sign and thinned subplate

研究の背景と目的

ダウン症候群は、1866年にJohn Langdon Down(ジョン・ラングドン・ダウン)によって初めて体系的に特徴づけられ、その後1959年にJérôme Lejeune(ジェローム・ルジューヌ)によって21トリソミーと同定されました。医療と社会的支援の進歩により、現代においては生命予後が劇的に改善されています。

このような進歩があると同時に、米国立衛生研究所(NIH)が主導する「INCLUDE(INvestigation of Co-occurring conditions across the Lifespan to Understand Down syndromE)」プロジェクトがダウン症の研究に力を入れているにもかかわらず、出生前診断は依然として、21トリソミーの有無を「陽性/陰性」という二者択一的な診断にとどまっています。ダウン症に見られる幅広い表現型の多様性を反映していません。

高度な神経画像技術は、この多様性の神経解剖学的基盤を解明する手がかりを提供する可能性があります。ダウン症をもつ胎児の脳でこれまで20年以上のDr.ぷぅの経験から臨床で観察してきた2つの未報告の形態学的特徴(「seagull sign」[冠状図上でカモメのような形を形成する大脳半球]と 「thinned subplate」)について、客観的で定量可能な指標を確立し、妊娠17週~30週の間の発達経過を明らかにするため、本研究に取り組みました。

研究デザイン

この多施設共同の後ろ向き症例対照研究では、妊娠17~30週に撮像された胎児脳の経腟3次元ニューロソノグラフィーアーカイブ画像を用い、トリソミー21の症例76例と対照772例を解析しました。

過去20年間の臨床経験で一貫して観察され、次第に認識されるようになった所見を科学的に検証するため、大脳半球の形態を示す標準化指標(「カモメ比(seagull ratio)」)とサブプレート厚の測定法を開発。統計学的比較には Mann‑Whitney U 検定を用い、有意水準は P<0.01 と設定しました。

同じ「カモメサイン」や「菲薄化サブプレート」と言う所見があるダウン症のある胎児でもその比率が違う

結果

カモメ比はトリソミー21症例で有意に高く(P<.0001)、特に22週以前で高かったのですが、亜板厚は観察された妊娠期間を通じて一貫して減少していました(P<.0001)。

両測定値とも、観察者内信頼性(カモメ比はクラス内相関係数=0.997;95%信頼区間、0.995-0.998、亜板厚はクラス内相関係数=0.989;95%信頼区間、0.973-0.996)および観察者間信頼性(クラス内相関係数=0.958;95%信頼区間、0.930-0.975、クラス内相関係数=0.983;95%信頼区間、0.957-0.993)で、優れた信頼性を示しています。

9症例の縦断的解析から、22週後にはシーガル比は正常範囲に近づいたが、亜板の薄化は持続しました。

注目すべき点は、21トリソミー・モザイク型の3症例(3.9%)において、サンプル数が少ないため十分な検証は難しいものの、神経解剖学的な特徴とトリソミー細胞の割合との間に関係がある可能性を示すような変動パターンが見られたことです。

結論

本研究は、ダウン症のある胎児の脳における2つの新たな神経解剖学的な特徴を科学的に検証したものであり、従来の二元的な診断の枠を超えて、神経発達の多様性を捉える視点へと理解を広げるものです。これらの特徴は視覚的に確認可能であり、同じ遺伝子診断を受けた胎児間に観察される差異を明らかにすることで、出生前カウンセリングの質を高める可能性があります。

これらの特徴と発達の将来的な結果との関係については、さらなる研究が必要です。しかし、同じ「カモメサイン」や「菲薄化サブプレート」という所見があるダウン症のある胎児でもその比率が違うといった所見は、最終的に個別化された評価に用いるための客観的指標となり得るほか、今後の治療介入の成果を測るための潜在的なエンドポイントとしても機能することが期待されます。個別化された胎児医療という新しい領域に貢献する可能性を秘めているのです。

全文をご覧になりたい方

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