水頭症はかならずしも水頭症でない!?

Column

出生前診断を受けるにあたって、さまざまな疑問や不安が頭をよぎるのではないでしょうか。こちらの記事では、Dr.ぷぅが妊娠中や出生前診断で気になること、あるいは心配なことをわかりやすく解説しています。

水頭症とは

妊婦健診で医師に「水頭症の疑いがあります」と告げられ、どうしたらいいのかわからずクリフムに相談に来られる人がいます。

日本では胎児の脳分野に明るい産婦人科医はそう多くなく、脳室が拡大しているから水頭症と言われているケースも少なくはありません。また意外なことに、脳外科や神経内科、放射線科を専門分野とする医師も、生まれた後の脳のことには詳しくても、胎児の脳に詳しい専門家はほとんどいないのです。

ここで重要なのは「水頭症」とは、あくまでも状況を表す言葉であって、病名ではないことです。

正常の胎児の脳室系

ヒトの脳は、大脳や小脳、脳幹などで構成されていて、主に大脳の中には脳室と呼ばれる部屋が交通していて水が一定方向に流れています。

側脳室という部屋が左右の大脳の中にそれぞれあり、そこからモンロー孔という細い通路を流れて第三脳室という部屋へ、そして中脳水道という通路を流れて第四脳室という部屋に水は流れていきます。第四脳室を出た水はそこから小さい孔を通って脳や脊髄の周りのくも膜の中を循環し、そして吸収されていきます。

この水というのは、脳脊髄液という無色透明で綺麗な液体のことです。この水は、側脳室内の脈絡そうと呼ばれる柔らかいスポンジのようなところでどんどん作られていきます。

中脳水道やモンロー孔が細くなったり詰まったりすると流れがせき止められ、脳脊髄液が脳室に溜まり、拡大してしまいます。排水路に何かが詰まって水道水が溢れてしまうというのは容易に想像できますね。

排水管づまりのイラスト

通路の狭窄・閉鎖によって脳室が拡大することが「水頭症」と呼ばれる状態なのです。通常、水頭症という状態では、頭蓋内圧という、頭の中の圧がとても高くなる状態になります。その圧が高いかどうかは、脈絡そうの状態などをみて判断することができます。

脈絡そうが正常ではふわふわしたスポンジみたいなのですが、頭蓋内圧が高くなるとぺちゃんこで棒みたいな形になります。上の「正常」の図と下の「水頭症」の図の脈絡そうを比べてみてください。

水頭症1水頭症2

では、脳室が拡大すればすべて頭蓋内圧が高くなる水頭症なのかと言うと、そうではありません。

脳脊髄液は正しく循環しているにもかかわらず脳室が大きくなっている場合の「脳室拡大」は、上に書いたような水頭症とは違います。

下の図ではモンロー孔も中脳水道も正常で水は流れているはずですし、脈絡そうもペチャンコにならず正常なふわふわな形です。なにのどうして脳室が大きいのでしょう。

交通性の脳室拡大

そもそも妊娠の初期の脳は、ほとんど脳室で占められています。妊娠週数が進むにつれ、徐々に大脳が発達していき、脳室の割合は減っていきます。でも、脳の発達がゆっくりしている場合(大脳発達不全の場合)には脳室の割合が大きいままになり、脳室が拡大していると診断されます。

脳室拡大の検査

一般には、側脳室三角部と呼ばれる部位を測り、10mm以上ある場合に「脳室拡大」と判断されます。

10-12mmの場合は軽度、13-15mmの場合には中等度、15mmを超える場合には重度と判定されますが、12mmくらいまでは生まれても正常と診断されることもあります。

しかし、計測値だけで早計に診断をつけるのは良くありません。脳室拡大の原因によっては重度の15mm以上であっても医学的な見通しは良いこともあり、一概には悪い状況とは言えないのです。

クリフムの胎児脳ドック(中期ドックや後期ドック)では側脳室三角部が10mmを超えていたり、見た目上脳室が大きいと判断する場合には、側脳室の体積と頭の体積を3D超音波で正確に計測し、頭の中で脳室が何%かを正確に表示し、正常よりも拡大している場合には継時的に測定して正常化するかどうかを見ることで、問題のない一時的な脳室拡大なのか、なんらかの問題がある脳室拡大なのかを判断します。

妊娠中は一時的に脳室が拡大していても自然に治り、元気に育っている子供さんも実際におられますが、脳室が拡大する原因が何かということが最重要事項なのです。ですから、脳室が拡大している場合は、脳脊髄液の流れが滞っているのか、大脳の発育が良くないのか、遺伝子の病気があるのかなどの原因を正しく突き止めることが大切です。

水頭症と言ってもさまざまな原因がある

水頭症は病名ではなく状況を表す言葉とお伝えした通り、水頭症が起こる原因は何百種類もあります。

本当に水頭症かどうかを知るためにも、まずは脳室が大きくなっている原因を調べるのが一番大切です。

詳しく調べてみれば脳梁欠損や脳の発達不全など、さまざまな原因があるのですが、十把一絡げに「水頭症」と言われ、医師ですらその実態を知らない人もおられます。

脳室拡大の原因が染色体異常や遺伝子変異であれば、そもそも治療はできません。脳梁欠損の場合は脳室の後ろの方が大きく見えますが、とくに治療をしなくてもすくすく育つ可能性が十分にあります。二分脊椎であれば、生まれてすぐに手術しなければなりません。

水頭症と言われる赤ちゃんの「本当の病気」を見つけて対応していかなければならないのです。

水頭症の原因(1)モンロー孔や中脳水道の狭窄や閉鎖

上述したように、脳脊髄液はどんどん脈絡そうから産生されているのに、モンロー孔や中脳水道の水の通りが悪くなると、脳室拡大や水頭症になります。でも、胎児の頭はとてもうまくできています。生まれる前の赤ちゃんは頭蓋骨がバラバラのままで、骨の間に隙間が多くあり、内側に水がいっぱいになって脳が内側から押されても、できるだけ頭を外側に大きく膨らませていくことで、脳を少しでも内側の圧から開放しようとします。大人のひとが水頭症になったら頭蓋骨はヘルメットのようになっているので、頭を膨らませることはできず、ひどい頭痛が起こります。ですから、水頭症で赤ちゃんの頭が普通よりも大きくなっていくことは決して悪いことではないのです。

生まれてから「リザバー」や「シャント」を入れて水を少しずつ出してあげると徐々に圧排されていた脳は正常に戻っていくことが多いです。しかし、神経的な予後が良いかどうかは原因によりさまざまです。

中脳水道の狭窄や閉鎖というのは昔から水頭症の原因として言われていましたが、このような中脳水道閉鎖の原因がダウン症などの染色体異常やL1CAM遺伝子変異という特殊な遺伝子変異により起こることも知られています。L1CAM遺伝子による水頭症は男の子だけに起こり、多くの赤ちゃんは手の親指が内側に内転しているという所見が見られ、神経学的な予後は非常に重篤であることもあります。

よく、「赤ちゃんは水頭症ですが、生まれてからシャントすれば治って元気になりますよ」と説明を受けたという患者様がいらっしゃいますが、必ずしもそうとは限りません。羊水検査で遺伝子検査まで行い原因を究明することが非常に重要になります。

水頭症1水頭症2

水頭症の原因(2)二分脊椎症

妊娠初期に、脳や脊髄などの中枢神経系の元となる「神経管」が形成されますが、この神経管がうまく閉じなかったことで脊髄神経や脊髄神経を包む膜が背中から体外に露出してしまう病気です。脊髄神経が外に露出している場合は、脊髄髄膜瘤とも言います。脊髄髄膜瘤がある場合には、排尿や歩行に問題がでることが多くあります。では背中の病気と脳室とはどのように関係するのでしょう。

脊髄神経が外に出てしまうことで連鎖的に小脳や脳幹の一部である延髄が脊柱管に引き下ろされ(これをキアリ奇形といいます)、その結果として脳脊髄液の流れが小脳の前にある第4脳室や中脳水道でせき止められ、水頭症を引き起こしてしまいます。つまり、背中の病気があるのに水頭症や脳室拡大となるのは、二次的な要因のせいで、脳自体の問題なのではないと考えられています。

水頭症の原因となる二分脊椎症

水頭症の原因(3)脳梁欠損

大脳は左右に半球として分かれていますが、左右の大脳半球をつなぎ合わせているのが「脳梁」です。側脳室の背面に位置しています。

つまり、脳梁は頭の中の「梁(はり)」ということになりますが、これがないと支えが無くなり、脳室の形が変化することで脳室が拡大したように見えます。

脳室拡大と言われ、詳しく見てみると脳梁欠損が原因だった子供さんが実際におられますが、手術の適応にならないことが多いです。脳梁欠損の他に遺伝子変異、合併奇形、症候群といった異常がない場合、つまり脳梁欠損のみの子供さんの多くは症状もなく育つと言われています。実際に特に病気も何もない人が、大人になってたまたま交通事故などで頭を打ちMRI検査を受けたら「あなたは脳梁がないですね」と言われることもあるのです。

水頭症の原因(4)脳の発達不全

上述したモンロー孔や中脳水道の狭窄や閉鎖、二分脊椎などによる水頭症や脳室拡大では、生まれてから水を少しずつ抜いてあげることで治療が可能です。また、脳梁欠損などでは脳の発達自体は正常であることも多く治療を要さないことも多いです。しかし、妊娠週数に比べて大脳の発達が悪い場合、つまり大脳の発達不全によっても脳室拡大は起こります。

この図のように、モンロー孔も中脳水道もまったく正常であるのに脳室が大きい場合には、頭蓋内の圧は高くなく、脈絡そうも正常に見えることがあります。このような場合には、生まれてからシャントなどで水を抜いても脳の発達はゆっくりのままであることが多いです。染色体や遺伝子の病気であったりする場合も多く見られます。

交通性の脳室拡大

水頭症の原因(5)脳内出血

脳内出血の合併症として、水頭症が起こることがあります。側脳室に近い部分の脳内出血が起こると、そこから出血した部分が脳室に穿破して、脳室内に血のかたまりがはいり、それがモンロー孔に詰まったりして脳室拡大や水頭症となる場合があります。また、脳室内の脈絡そうの中にも細い血管がたくさんあり、脈絡そうに出血が見られる場合もその血のかたまりがモンロー孔に詰まることがあります。

また、脳内に多発する脳内出血の原因を突き詰めていくと、出血を起こしやすい遺伝子変異(コラーゲンIV遺伝子変異)が見つかることや、母体の血小板抗体などが関係しているとわかることもあります。

脳内出血が起きた場合、数日で状況が変わっていくこともよく見ます。クリフムでは、脳内出血がわかった際には分娩施設と協力し、脳ドックを毎週のように繰り返して経過観察をしていきます。

水頭症の原因(6)子宮内の脳障害

子宮内で何らかの脳障害がおこり、脳の多くが失われるような場合(破壊性脳障害)にも脳室拡大や水頭症となる場合があります。

よく見られるのは、一卵性で胎盤を共有する双子ちゃんのうち一人がお腹の中で死亡してしまった場合にもう一人の元気な赤ちゃんの脳障害が起こることがあります。これは、二人の赤ちゃんの臍帯の血管が共有している胎盤の中で繋がっているために起こります。一人が亡くなったことで、もう一人の血圧が変化したり、血液を固まらせてしまう物質が亡くなった赤ちゃんから元気な赤ちゃんに移行したりすることで、脳障害が起こることがあるのです。

しかし、もう一人の赤ちゃんが死亡したことが原因で、脳障害が起こるかどうかは、死亡後数週間内にはっきりします。

クリフムでは、一人の赤ちゃんが死亡した双子ちゃんに詳細な脳神経超音波検査を行い、脳障害が起こっていないかをチェックしていきます。脳障害が起こる場合には微妙な変化は、2週間以内に起こってきます。数週間内に変化がなく、きちんと正常な形態の脳構造であれば、元気に生まれてくるでしょう。

一絨毛膜性双胎の1児死亡後の脳障害

その他

母体がトキソプラズマ感染症や、サイトメガロウイルス感染症になり、それが赤ちゃんに移行し、併発して水頭症が起こることがあります。その場合には、その他のいろいろな所見を伴うこともあり、詳細な超音波検査により感染症かどうか、また母体血のトキソプラズマやサイトメガロウイルスの抗体検査、あるいは羊水検査などを行ない、感染の有無を確認します。

他にも、いろいろな原因で脳室拡大や水頭症は起こります。繰り返しになりますが、脳室拡大や水頭症がある場合、最重要事項は原因が何かです。羊水検査をして遺伝子検査をする2週間の間に脳室の体積変化や脳形態の発達を見ていき、赤ちゃんの将来を予測していくことになります。

起こりうる症状や障害

水頭症がなぜ起こっているのか、その原因によって症状や障害も異なります。

新生児や乳児の場合は頭囲の拡大、ミルクをあまり飲まない、嘔吐、たまに呼吸が止まる、睡眠時間が長い、前頭部の突出、情緒不安定などの症状が見られます。またてんかんや痙攣がでることもあり、幼児以降になると頭痛や嘔吐、眼球の神経麻痺、体のバランスが取れないなどの症状が見られることもあります。

クリフムの胎児脳ドックでどこまで見れるか

数百種類もある水頭症の原因を正しく突き止めなくては、正しいアプローチもマネジメントもできません。

クリフムでは世界でも類をみない胎児脳の専用フロアを備え、お腹の赤ちゃんの脳ドックを行なっています。精密な超音波検査や胎児MRI検査、羊水検査による遺伝子検査など、胎児脳の出生前診断に関するすべての検査をそろえています。

脳室が拡大している子供さんなら、最低3回連続で詳しい脳神経超音波を行なっていきます。さらに、脳の異常がある場合には、顔面や手の指に異常がでることもあります。脳だけでなく、顔や手足に至るまでさまざまな部位をしっかり見たうえで診断をつけています。

院長であるDr.ぷぅは胎児脳に関する書籍を海外で3冊出版し、多数の論文を発表し、現在では国際学会でも「胎児脳」といえば当然のように名前が出てくるようになりました。胎児脳分野の先駆者として、しっかりとお腹の赤ちゃんのことを見させていただきます。

もちろん全ての水頭症の原因が判明するわけではありません。また、一時的に脳室が大きくても2-3週間ですっかり自然に治ってしまう場合もあります。

「水頭症」ではなく、本当に病気があるのかないのか、あるのであれば正しい病名が何なのかを突き止めることが、ママとパパ、そしてお腹の赤ちゃんにとっての第一歩になるはずです。

分娩に関する不安があるママとパパには、出生後のことを想定して新生児科や小児神経外科などと連携を取り合いながら対策を考えていくこともできますので、医師に「水頭症の疑いがある」と言われて不安な人、上の子供さんに水頭症があった人、その他不安がいろいろとある方は、ぜひクリフムにご相談ください。一緒に大切な赤ちゃんをみていきましょう。